アスベスト相談室

建設アスベスト給付金制度について弁護士が解説

現在、国の規制によって使用を全面的に禁止されているアスベストですが、建設現場などで使用されてきた過去があります。
アスベストの規制が適切に行使されてこなかったことが被害を拡大させた要因でしたが、長期間、国の責任は認められませんでした。
そのため、業務中にアスベストを吸い込んだことが原因として健康被害を受けたとしても、国の責任が認められていなかったため、必要な救済を受けることが出来ないまま泣き寝入りをしている建設アスベスト被害者が多く存在していました。
しかし、令和3年に最高裁判決によって国の責任が認められました。国の責任が認められたことを受け、令和4年から建設アスベスト給付金制度が開始されました。これにより、一定の要件を満たした方は、国から給付金を受けることが可能となりました。

本記事では、建設アスベスト給付金制度の概要を、給付金制度が開始するまでの流れと共に弁護士が解説します。

1. 建設アスベスト給付金制度の概要

過去に建設業務に従事していた労働者や一人親方・中小事業主(以下「労働者等」とします)の方々がアスベストを原因とした健康被害を受けたのは、国が規制権限を適切に行使しなかったことを理由とし、当時労働者等であった方やそのご遺族の方が、国に対して損害賠償を請求した訴訟し(通称『建設アスベスト集団訴訟』は令和3年(2021年)5月)、一定の範囲で国の責任を認める判決が言い渡されました。

『建設アスベスト集団訴訟』の判決を受け、国は、令和3年6月9日に「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」(以下「給付金支給法」とします)を制定し、一定の要件を満たす被害者の方やその遺族の方に対して、速やかに給付金を支給する制度を創設しました。

(1) いつから受給できるのか?

建設アスベスト給付金の請求は、給付金支給法(令和4年(2022年)1月19日)が施行されたのち給付金請求の受付が開始されました。
建設アスベスト給付金を請求すると、厚生労働省において審査・認定が行われます。そして、認定されると指定した口座に給付金が振り込まれます。

(2) 建設アスベスト給付金の請求方法

建設アスベスト給付金を請求するためには、必要書類を厚生労働省の所定の課宛てに郵送する必要があります。これらの必要書類を郵送する際には、レターパックなどの追跡が可能な方法を選択すると良いでしょう。

主に請求に必要な書類として、『特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等請求書』の他に就業歴や石綿ばく露作業へ従事していたことが分かる資料等が必要となります。

具体的な必要書類については厚生労働省のホームページに公開されていますが、弁護士に給付金請求を依頼すると、書類の準備や請求までのサポートをさせていただきます。

2. 建設アスベスト給付金の受給要件

(1) 特定石綿ばく露建設業務に従事していた労働者等やその遺族であること

特定石綿ばく露建設作業とは、次のような建設業務のことを指します。それぞれ、以下の期間中に所定の作業に従事していた労働者等であることが必要となります。

なお、「労働者等」とは、企業等に雇用されていたケースだけでなく、一人親方や中小事業主(家族従事者等も含みます)も対象となります。

■石綿の吹き付けの作業にかかる建設業務
対象期間:昭和47年(1972年)10月1日~昭和50年(1975年)9月30日
■屋内作業場であって厚生労働省令に定めるものにおいて行われた作業に係る業務
対象期間:昭和50年(1975年)10月1日~平成16年(2004年)9月30日

『屋内作業場であって厚生労働省令に定めるものにおいて行われた作業に係る業務』に該当するのは以下の状況を満たす場所と定められています。

■屋根がある
■側面の面積の半分以上が外壁などに囲まれ、外気が入りにくい
■外気が入りにくいことにより、石綿の粉じんが滞留するおそれのある作業場

※ただし、これらに該当するか微妙なケースもあります。そういったケースでも、一人で悩まず、まずは弁護士に相談してみることをお勧めします。

(2) 石綿関連疾病を発症したこと

アスベストが原因での発症する疾病という中皮腫や肺がんのイメージがありますが、その他にも以下のような疾病を発症した際にも請求の対象となります。

■中皮腫
■肺がん
■著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
■石綿肺(じん肺管理区分で管理2~4に相当するもの)
■良性石綿胸水

(3) 遺族請求の場合には請求者の順位がある

請求要件を満たしている労働者等が、すでに石綿関連疾病で亡くなっている際には、遺族の方が給付金を請求することが出来ます。
しかし、給付金の支給対象となる遺族は、①配偶者(内縁含む)⇒②子供⇒③父母⇒④孫⇒⑤祖父母⇒⑥兄弟姉妹の順番であり、その中で最先順位の立場の遺族に限られます。
※同順位の遺族が複数人居る際には、代表者1名が請求します。

(4) 請求期限があることに注意

建設アスベスト給付金の請求には、請求期限があります。その期限を過ぎてしまいますと、例え要件を満たしていても請求が出来なくなってしまいます。
請求期限の原則は、以下のいずれか遅い方の日を起算日として20年です。

■石綿関連疾病にかかった旨の医師の診断を受けた日
■管理2~4のじん肺管理区分の決定を受けた日

※なお、被害者が石綿関連疾病で亡くなっている際には、亡くなった日から起算して20年となります。

3. 建設アスベスト給付金の支給額

疾病ごとに基本的な金額が定められていますが、一定の事由がある際には減額されます。

(1) 各疾病の支給額

疾病の種類ごとに支給額が分かれており、550万円~1300万円の範囲で支給額が定められています。

 疾病の種類支給額
1石綿肺(石綿肺管理2・じん肺法所定の合併症なし)550万円
2石綿肺(石綿肺管理2・じん肺法所定の合併症あり)700万円
3石綿肺(石綿肺管理3・じん肺法所定の合併症なし)800万円
4石綿肺(石綿肺管理3・じん肺法所定の合併症あり)950万円
5中皮腫、肺がん、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、石綿肺(石綿肺管理4)、良性石綿胸水1150万円
61または3で死亡した場合1200万円
72または4または5で死亡した場合1300万円

※なお、給付金を受給した後に症状が悪化し、疾病の種類が変わった際にも、追加で請求することが出来ます。(追加請求した場合には、すでに受けた支給額との差額が支給されます)。

(2) 減額されるケース

給付の要件を満たしていても特定石綿ばく露建設業務に従事していた期間が一定期間を下回る際には、支給額が10%減額されます。期間は以下のように定められています。

■肺がん・石綿肺の場合…10年未満
■著しい呼吸機能障害を伴う
びまん性胸膜肥厚の場合…3年未満
■中皮腫・良性石綿胸水の場合…1年未満

また、肺がんの場合には、喫煙の習慣があった場合にはさらに支給額が10%減額されます。そのため、肺がんについては、従事していた期間が減額事由に該当し、喫煙の習慣があった場合には、支給額の満額から19%減額されることになります。

4. 建設アスベスト給付金制度の創設背景

建設アスベスト給付金の概要をここまで解説してきましたが、ここからは簡単にアスベストが規制されるまでの背景を解説していきます。

(1) じん肺法の施行(昭和35年(1960年))

この年には、じん肺法が制定・施行されました。この法律が制定・施行されたことによって粉じん(アスベスト含む)にさらされる作業に従事する労働者に対して定期的な健康診断を義務付け、その結果に応じて肺管理区分の決定が行われるようになりました。

(2) アスベスト含有率5%を超えるアスベストの吹き付けの原則禁止(昭和50年(1975年))

この年には、アスベストの含有率が5%を超える吹き付け作業を原則禁止されることになりました。また、1970年代には、労働安全衛生法、同施行令、労働基準法特定化学物質等障害予防
規則等をはじめとする関連する法令が徐々に設備されていき、アスベストの使用が段階的に禁止されていきます。

(3) アスベスト含有率1%を超えるアスベストの吹き付けの原則禁止(平成7年(1995年))

この年には、規制がさらに強化され、アスベストの含有率が1%を超えるものの使用を禁止されました。また、アモサイト(茶石綿)、クロシドライト(青石綿)、については、製造、輸入、使用が禁止されました。

(4) アスベストを含む建材などの使用禁止(平成16年(2004年))

アスベストを含有する建材、摩擦材、接着剤等10品目について、製造、輸入、使用が原則として禁止されました。

(5) アスベストの使用を原則全面禁止(平成18年(2006年))

含有率が0.1%を超えるアスベスト製品の製造、輸入、譲渡、提供、使用がほぼ全面的に禁止されました。

(6) 建設アスベスト給付金支給開始(令和3年(2022年))

アスベストの使用は禁止された後も、被害を受けた方の救済はなかなか進みませんでした。しかし、『建設アスベスト集団訴訟』で国の責任が認められ給付金制度がスタートしたことで、アスベスト健康被害の問題は大きく前進したといえます。

5. まとめ

建設アスベスト給付金制度の給付要件に該当する期間にアスベストに触れる仕事をしており、アスベストを吸っていたとしても、かなり前の話であって、ご自身やご家族が、給付金の要件に該当するのかわからない方、また、既に当時の勤め先を退職されていたり、当時の勤め先が廃業していたりする方もいらっしゃいます。

そういったケースでも、少しでも思い当たることがある方は、まずは当事務所までご相談下さい。

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