アスベストにより引き起こされる病気とその症状
アスベスト(「石綿(いしわた・せきめん)」)が原因で、石綿肺や肺がん等の深刻な病気にかかるおそれがあります。アスベストは、肺に留まり潜伏することで、健康被害を発生させます。多くの健康被害は、アスベストを吸い込んだ時期と健康被害が発生する時期との間に時間差があります。
健康被害が発生するまでに時間差があることから、過去にアスベストを吸い込んだと思われる方は、健康診断をおろそかにしないことで、健康被害を予防・早期発見できます。また、該当する症状があると疑われる方は、すぐに検査を受けることを推奨します。
では、アスベストの健康被害といってもどのような症状が出るのでしょうか?
また、健康被害が発生した場合、誰に、どのように救済を求めればいいのでしょう?
この記事では、一般的な、アスベストによる健康被害の症状を解説します。加えて、健康被害が発生した場合、利用できる救済制度についてもご紹介します。
目次 1.アスベストによる健康被害:罹るおそれがある病気とその症状 (1)なぜ健康被害が発生するの? (2)罹るおそれのある病気とその症状 2.アスベストによる健康被害:潜伏期間 (1)アスベストを吸い込んだとしても無症状? (2)罹るおそれのある病気の潜伏期間 (3)健康診断、検査を受ける! 3.アスベストによる健康被害:救済制度 (1)労災申請 (2)アスベスト(石綿)健康被害救済給付金を申請する (3)国とのアスベスト訴訟和解手続き(工場型) (4)国の給付金制度(建設型) (5)企業に対して損害賠償を請求する 4、アスベストによる健康被害は弁護士に相談を 5、まとめ |
1.アスベストによる健康被害:罹るおそれがある病気とその症状
アスベストを吸い込むと、健康被害が発生する危険があります。まず、なぜ健康被害が発生するのか、罹るおそれのある病気とその症状を確認しましょう。
(1)なぜ健康被害が発生するのか
アスベストは、日本語で「石綿(いしわた・せきめん)」といい、天然から産出される繊維状結晶の鉱物です。様々な優れた物的性質を有し、さらに安価で経済的です。そのため、建材、防音材、保温材や断熱材として、非常に多くの場面で使用されていました。
また、誤解されがちなのですが、アスベストそれ自体やそこにあることが直ちに問題となるものではありません。
アスベストの使用方法として、例えば、ビルなどの建築工事において断熱目的で、鉄骨にアスベストを吹き付けていました。
この吹き付け作業などの際にアスベストを吸い込み、その一部が肺の組織内に留まって、長い潜伏期間を経た上で、アスベストによる健康被害が発症します。
なお、昭和50年に使用が原則禁止となり、現在では製造等も原則禁止されています。
(2)具体的な病気とその症状
アスベストが原因で罹るおそれがある主な病気(石綿関連疾病)について確認していきましょう。
◆ 石綿(アスベスト)肺
石綿(アスベスト)肺とは、アスベストを大量に吸い込むことが原因で、肺が線維化して硬くなるじん(塵)肺の一種です。
症状として、息切れや運動能力の低下、せき、たんが見られます。症状が進行すると、肺の組織が破壊され、呼吸困難となり、日常生活に支障をきたします。また、気管支炎、肺がんなどの合併症を引き起こす危険があります。
◆ 肺がん(原発性肺がん)
肺がんとは、肺の気管、気管支または肺胞を覆う上皮に発生する悪性の腫瘍です。そして、原発性肺がんとは、気管、気管支または肺胞の一部ががん化したもの、つまり肺の周辺から発生したがんのことです。他の臓器からの転移によって発生するものを続発性(転移性)肺がんと呼びます。
原発性肺がんは、喫煙など、アスベスト以外の多くの原因でも発生するとされています。それだけではなく、アスベストの吸入と喫煙が重なると、肺がんの危険性が相乗的に高くなることが知られています。
症状としては、せき、たん、血痰(けったん)がよくみられます。しかし、無症状の場合もあり、健康診断等で胸部エックス線等の検査を受けてはじめて発見されるケースもあるため、定期的な健康診断が大切です。
◆ 悪性中皮腫
悪性中皮腫とは、肺を囲む胸膜、胃や肝臓などの臓器を囲む腹膜、心臓と大血管の一部を覆う心膜等にできる悪性の腫瘍のことです。胸膜中皮腫の発生頻度が高いといわれていますが、腹膜や心膜など他の部位に中皮腫が発生する例も見られます。
症状としては、胸膜中皮腫では息切れや胸の痛みが多くみられます。その他にもせき、発熱、全身倦怠(けんたい)感、体重減少なども確認できます。無症状のこともあり、胸部エックス線等の検査を受けて初めて発見される場合もあります。腹膜中皮腫では腹痛、おなかの張り、腹水貯留(腹水が過剰に生産され、吐き気、息切れなどを起こす。)などがみられます。
◆ びまん性胸膜肥厚
びまん性胸膜肥厚とは、肺の表面を覆う胸膜が線維化し、一定の範囲が厚くなってしまう病気のことです。比較的高濃度のアスベストを吸引し、蓄積することによって発病すると考えられています。なお、びまん性胸膜肥厚は他の原因によって発生することもありますが、石綿肺と合併することも多いとされています。
症状としては、呼吸困難、反復性を持つ胸の痛みや呼吸器感染等です。
◆ 良性石綿胸水
良性石綿胸水とは、アスベストを吸い込むことによって、胸水(胸腔(きょうこう)内に体液が溜まってしまうこと)が発生する場合を良性石綿胸水といいます。胸水自体は、様々な原因で発生すると言われており、すぐに原因が特定できない場合もあるので、定期的な健康診断が大切です。なお、胸水は、数か月で自然に消滅することも多い一方、何度も繰り返すこともあります。
また、病名に「良性」とありますが、勿論体に良いという意味ではなく、単に「悪性ではない」ということを意味しているにすぎません。
症状としては、呼吸困難や胸の痛みなどがみられるとされています。また、無症状のこともあり、胸部エックス線等の検査を受けて初めて発見される場合もあります。
良性石綿胸水は診断が非常に難しく、気付いたら消えていることもあることから、石綿健康被害救済法による給付金支給対象にはなっていません。
一応、労災保険の適用はありますが、診断の困難性から厚生労働省と労働基準監督署が協議して認定するか否かの判断が下ります。
2.アスベストによる健康被害:潜伏期間
アスベストによる健康被害の大きな特徴は、長い潜伏期間にあります。アスベストを吸い込んだ多くの場合、すぐに病気に罹るわけではありません。吸い込んでから、十数年あるいは数十年を経て、発病することがあります。
(1)アスベストを吸い込んだとしても無症状?
アスベストを吸い込んだ場合、アスベストが長期間潜伏することによって、発病、発症します。なので、アスベストを吸い込んだとしても、すぐに発病、発症するわけではありません。また、発病したとしてもすぐに症状が出るわけでもありません。病気がある程度進行するまで無症状であることが多いといわれています。
そのため、無症状のまま健康診断等で病気が見つかることが多いです。見つかったときには病気が進行していることもあるので、定期的に健康診断を受けることが大切です。
(2)アスベストの潜伏期間
アスベストを吸い込んでから発病、発症するまでの潜伏期間を病名別に一覧にしました。ただし、発病、発症の時期には個人差があり、また、アスベストに晒されている状況によっても差があるため、あくまでも参考となる目安の期間と考えて下さい。
病名 | 潜伏期間(参考) |
石綿(アスベスト)肺 | 15~20年程度 |
原発性肺がん | 15~40年程度 |
悪性中皮腫 | 20~50年程度 |
びまん性胸膜肥厚 | 30~40年程度 |
良性石綿胸水 | 15~40年程度 |
(3)健康診断、検査を受ける!
アスベストによる健康被害は、上述したように、アスベストが肺に長期間潜伏することに特徴があります。そのため、石綿にさらされる作業(アスベストの採掘、運搬、アスベスト製品の製造、使用、管理、点検、解体や回収に従事したなど)に従事していた方で次のような症状がでたら、早めに医療機関で健康診断や検査を受けることをお勧めします。
◇せきやたんがこれまでより増えた
◇たんの色が変わった、血液が混ざった
◇息切れがひどくなった
◇激しい動悸(どうき)がする
◇かぜがなかなか治らない
◇微熱が続く、高熱が出た
◇顔色が悪い
◇爪が紫色になった
◇食欲がなく急に痩せた
◇横になると息が苦しくなる
◇やたらに眠い
※参考:厚生労働省 石綿にばく露する業務に従事していた労働者の方へ
3.アスベストによる健康被害:救済制度
アスベストによって健康被害を被ってしまった場合、対象者と認定されれば、国の救済制度を利用して、金銭の給付を受けることができます。また、訴えを起こして、損害賠償請求をすることも考えられます。
以下では、救済制度の概要などを紹介します。
(1)労災申請をする
アスベスト健康被害は、いわゆる労災保険の給付を受けることができます。
労災保険制度とは、労働者が、仕事などが原因で負傷や病気になった場合に保険給付を行う制度です。
アスベストに晒されていた職場で労災保険に加入している(していた)場合、仕事に従事したことが原因で石綿関連疾病などを発病し療養や休業をしたら、労災申請をして、保険給付を受けられます。また、不幸にもご本人がお亡くなりになられた場合、遺族が受け取ることができる給付もあります。ただし、時効があるため注意が必要です。
(2)アスベスト(石綿)による健康被害救済給付を申請する
アスベスト(石綿)による健康被害救済給付は、アスベストによる健康被害を受けた方やその遺族に対し、医療費等を支給する措置を実施し、迅速な救済を図ることを目的として定められた「石綿による健康被害の救済に関する法律」(平成18年3月27日に施行。なお、その後一部改正。)に基づく給付です。特に、労災保険の対象とならない方や、時効により労災給付を受けられない方を救済するための救済制度と考えられています。
一定の要件を満たし、認定された場合、医療費などの給付を受けることができます。
(3)建設アスベスト給付金制度
アスベストにさらされる建設業務に従事した方等に対し、令和3年6月に成立した「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」(令和4年1月19日に完全施行。)に基づき、損害への迅速な賠償を図るため、給付金を支給する制度が設けられました。
一定の手続きを踏み、要件を満たせば、訴訟を起こすことなく、国から給付金の支給を受けることができます。
(4)国を訴えて、和解手続により損害賠償を請求する(工場労働者型)
大阪府南部・泉南地域の石綿(アスベスト)工場の元労働者やその遺族の方々などが、国に対し、アスベスト健康被害について賠償を求めていました(大阪泉南アスベスト訴訟)。最高裁判決(平成 26 年 10 月 9 日)が、アスベストの健康被害は国が規制権限を適切に行使しなかったためとして、国の責任を認めました。
石綿(アスベスト)工場の元労働者やその遺族の方々が国に対して訴訟を提起した場合、一定の要件を満たせば、訴訟において和解をして、国に損害賠償を求めることができます。
国に対して訴訟を提起する場合、法律事務所にご相談することをお勧めします。
(5)企業に対して損害賠償を請求する
アスベスト健康被害を被った方は、使用者・企業に対して、損害賠償を請求することができます。この請求は、公的機関からの給付金を受けることと同時に行うことができます。
公的機関からの給付金では、治療費などの給付を受けることができますが、精神的苦痛に関する手当はありません。これに対して、精神的苦痛に関しては、使用者・企業に対して訴えることが考えられます。
しかし、使用者・企業の対応は千差万別で、訴訟に至った場合には、通常の訴訟として具体的な証拠やアスベストに晒されていた状況を立証する必要もあります。使用者・企業に対して損害賠償を請求したい場合、特に弁護士の力が必要な場面ですので、個別にご相談ください。
4.アスベストによる健康被害は弁護士に相談を
アスベスト健康被害を被った場合、上述した救済制度などを利用することができます。しかし、様々な不安の中、手続を進めなければなりません。どの制度を利用すればいいのか、誰に申請すればいいのか、自分は申請していいのか、等わからないことだらけの中、アスベストによる健康被害を抱えて手続を進めるのは困難です。
弁護士に依頼し、ご自身の負担は最小限にとどめるべきことをお勧めします。
5.結び
アスベストを吸い込んだ場合、長い長い期間を経て、アスベストが身体をむしばみます。むしばまれた身体は、この記事で説明したような様々な症状を発症して、アスベストによる健康被害を知らせます。アスベストに晒されたのが数十年前だったとしても、上述した症状が出たら、アスベストによる健康被害を疑うべきかもしれません。
第一に、医療機関にて健康診断や検査を受けることを考えて下さい。そして、救済や損害賠償を求めるために、弁護士に相談することをお勧めします。
弊所では、弁護士とスタッフが一体となって、全力でサポート致します。お問い合わせは無料です。少しでも不安を感じている方は、ぜひご連絡ください。