大工のアスベスト被害について
○はじめに
本コラムでは、国又は企業に賠償責任が認められた職種の内、大工について解説します。
○大工とは
大工とは、木造建築物については工程全体に関与して作業し、鉄骨造や鉄筋コンクリート造の建築物においては、新築工事の内部造作の作業をする者を指します。大工は、建築物の工事におけるさまざまな作業に従事するので、おのずとアスベストにばく露する機会も多くなります。以下では、具体的にどのような作業でアスベストにばく露するとされているのか、またどのような建材の使用によってばく露するのか、裁判例を踏まえて解説します。
○どのような作業でアスベストにばく露するのか
大工が従事する多様な作業のうち、具体的にどのような作業でアスベストにばく露するのでしょうか。大阪高判平成30年9月20日では、次の作業がアスベストにばく露するものとして認定されています。
アスベストにばく露する大工作業として認定されたもの
・木造住宅の新築工事
・増改築工事
・鉄骨4階建てのマンションや倉庫の新築工事
・大阪空港周辺整備機構の民家防音工事等(基礎工事から、上棟、屋根下地・屋根仕上げ仕事、外壁下地・外壁仕上げ作業、内壁下地・内壁仕上げ工事等全ての工程)
また、これらのほかにも一般的に下記の作業によってもアスベストにばく露すると考えられています。
一般的にアスベストにばく露すると考えられる作業
・石綿含有建材の切断
・切断面のやすり掛け
・釘打ち
・上記各作業の前の石綿含有吹付け材をこそげ落とす作業
・石綿含有建材の取り壊し(増改築工事、解体工事など)
・清掃(床に滞積する石綿粉塵にばく露)
・他の建設作業従事者(左官、電工など)の作業により発生した石綿粉塵に間接的にばく露
○どのような建材の使用によってばく露するのか
上記の作業でも、石綿を含まない建材が使用される限りアスベストにばく露することはありません。下に挙げた建材は、石綿含有建材の中でも、上記作業で多く使用されていたものです。
(鉄骨、天井などの)石綿吹付作業 ※施工された吹付材を削る作業を含む
・吹付石綿
・石綿含有吹付ロックウール
・湿式石綿含有吹付材
(鉄骨、天井、梁、エレベーター周辺などの)耐火材取付作業
・石綿含有けい酸カルシウム板第2種
・石綿含有耐火被覆板
(天井、内壁、耐火間仕切り、浴室、台所などの)内装材施工作業
・各種石綿含有スレートボード・フレキシブル板
・石綿含有けい酸カルシウム板第1種
・石綿含有パーライト板
(台所及び洗面所の床など)床材施工作業
・石綿含有ビニル床タイル(Pタイル)
・石綿含有ビニル床シート
これらを使用した作業に従事したことのある方や、作業現場の関係でこれらの名称に聞き覚えのある方は、今症状が出ていなくても将来アスベスト被害を被ってしまう可能性があります。その場合、下記の救済手段によって国や企業から賠償金を受け取ることができる可能性があります。
○救済手段
具体的な救済手段は、以下のとおりです。
・労災保険による給付
・アスベスト(石綿)による健康被害救済給付
・建設アスベスト給付金制度
・国に対する損害賠償請求訴訟における和解
・企業に対する損害賠償請求訴訟
このように、アスベスト被害の救済手段はいくつも用意されています。しかし、中には手続きが煩雑で、一定の要件を満たさないと認められない手段もあります。アスベスト問題に詳しくない一般の方がこれらの手続きを進め金銭の給付を受けるのは、大変困難です。一定の救済については完全成功報酬で対応している弁護士も多いので、弁護士に一度ご相談されることをお勧めいたします。