アスベスト相談室

アスベスト被害と労災保険

アスベスト(石綿)は、耐熱性、耐久性、保温性などに優れている性質があり安価なことから様々な工業製品の原材料として使用されていました。アスベストは飛び散りやすく空気中に漂いやすい性質があり、空中に飛散したアスベストの繊維が人体に吸引されると一部が肺の組織内に長い期間蓄積されます。その結果、石綿肺や肺がんなどの疾病を引き起こすことがあると考えられています。

過去、多くの工場、建設現場でアスベストを扱う業務が行われていました。しかし、そのような現場のほとんどで適切な対応がなされておらず、そこで労働に従事していた多くの方が、長い潜伏期間を経てアスベスト健康被害を生じ今もなお苦しんでいます。

仕事でアスベスト粉じんにばく露し健康被害に遭われた方は労災保険の給付対象になることがあります。
この記事では、アスベスト健康被害で労災保険給付を受けることができる条件、給付内容や申請方法、また労災保険以外の救済制度や補償について解説します。

1、アスベスト健康被害が労災保険の給付対象となる理由

労災保険制度は、労働者の業務上の事由または通勤による労働者の傷病等に対して必要な保険給付を行う制度です。

労災保険は、原則として一人でも労働者を使用する事業所は適用事業所とされ、労災保険の加入義務が事業者に課されます。

原則このような適用事業所で使用される労働者が労災保険給付の対象となりますが、労災保険に特別加入している方であれば一人親方といった個人事業主でも対象となります。

労災は業務災害と通勤災害の2種類に分かれます。業務災害については業務上疾病に該当する場合に労働保険給付の対象となります。

アスベスト健康被害で労災保険給付の対象となるためには、労働者としてアスベストばく露作業に従事したことを原因として対象の疾病を発症したことが認められる必要があります。

  • 労災保険給付の対象条件

アスベスト健康被害が労災保険給付の対象として認められるためには、次の3つの条件をすべて満たす必要があります。

  • 対象疾病を発症したこと
    • 石綿ばく露作業に従事していたこと
    • 各疾病の労災認定基準を満たすこと


それぞれ詳細を見ていきます。

(1) 対象の疾病を発症したこと

アスベストとの関連が明らかな疾病として次の5つがあります。

  • 石綿肺
    • 中皮腫
    • 肺がん
    • 良性石綿胸水
    • びまん性胸膜肥厚

(2)石綿ばく露作業に従事していたこと
石綿ばく露作業とは、厚生労働省が定めている以下のような作業を指します。

① 石綿鉱山またはその附属施設において行う石綿を含有する鉱石または岩石の採掘、搬出または粉砕その他石綿の精製に関連する作業

② 倉庫内などにおける石綿原料などの袋詰めまたは運搬作業

③ 石綿製品の製造工程における作業

④ 石綿の吹付け作業

⑤ 耐熱性の石綿製品を用いて行う断熱もしくは保温のための被覆またはその補修作業

⑥ 石綿製品の切断などの加工作業

⑦ 石綿製品が被覆材または建材として用いられている建物、その附属施設などの補修または解体作業

⑧ 石綿製品が用いられている船舶または車両の補修または解体作業

⑨ 石綿を不純物として含有する鉱物(タルク(滑石)など)などの取り扱い作業


これらのほか、上記作業と同程度以上に石綿粉じんのばく露を受ける作業や上記作業の周辺などにおいて、間接的なばく露を受ける作業も該当します。
〈 引用元:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署|石綿による疾病の労災認定

(3)各疾病の労災認定基準を満たすこと
労災の認定基準は疾病ごとに異なります。また、それぞれ細かい基準が設けられていますので、ここでは概要のみをご紹介します。

なお、これらの認定基準を満たさない場合でも、病状や石綿へのばく露状況などを総合的に判断して業務上疾病と認定されることがあります。

疾病名認定要件
(1)石綿肺 (石綿肺合併症を含む)以下の①、②のいずれかに該当する場合 ①管理4の石綿肺(石綿肺によるじん肺症) ②管理2、管理3、管理4の石綿肺に合併した疾病※ ※合併した疾病とは、次の疾病をいいます。 ◆肺結核 ◆結核性胸膜炎 ◆続発性気管支炎 ◆続発性気管支拡張症 ◆続発性気胸
(2)中皮腫胸膜、腹膜、心膜または精巣鞘膜の中皮腫であって、以下の①、②のいずれかに該当する場合 ①胸部エックス線写真で、第1型以上の石綿肺所見がある ②石綿ばく露作業従事期間1年以上
(3)肺がん原発性肺がんであって、以下の①~⑥のいずれかに該当する場合 ①石綿肺所見がある ②胸膜プラーク所見がある+石綿ばく露作業従事期間10年以上 ③広範囲の胸膜プラーク所見がある+石綿ばく露作業従事期間1年以上 ④石綿小体または石綿繊維の所見 +石綿ばく露作業従事期間1年以上 ⑤びまん性胸膜肥厚に併発 ⑥特定の3作業に従事 +石綿ばく露作業従事期間5年以上
(4)良性石綿胸水胸水は、石綿以外にもさまざまな原因(結核性胸膜炎、リウマチ性胸膜炎な ど)で発症するため、良性石綿胸水の診断は、石綿以外の胸水の原因を全て除外することにより行われます。 そのため、診断が非常に困難であることから、労働基準監督署長が厚生労働本省と協議した上で、業務上の疾病として認定するか否かの判断をします。
(5)びまん性胸膜肥厚以下の①~③全てを満たす場合 ①石綿ばく露作業3年以上 ②著しい呼吸機能障害がある ③一定以上肥厚の広がりがある

〈 参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署|石綿による疾病の労災認定

3、労災保険給付の種類と内容

アスベスト健康被害が業務上疾病と認定された場合は、状況に応じた労災保険給付を受けることができます。また、それぞれについて時効があるため注意が必要です。

種類給付の目安保険給付の内容時効
療養補償給付業務上疾病等により療養する場合治療費等療養で発生した費用療養費を支出した日の翌日から2年
休業補償給付傷病の療養のため、労働することができず賃金を受けられない場合休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の60%相当額 ※特別支給金は給付基礎日額の20%相当額休業により賃金を受けられなかった日の翌日から2年
遺族補償給付労働者が死亡した場合遺族の数等に応じ、給付基礎日額245日分から153日分の年金労働者が死亡した日の翌日から5年
葬祭料労働者が死亡した場合315,000 円に給付基礎日額の 30 日 分を加えた額(その額が給付金 60 日 分に満たない場合は、給付基礎日額の 60 日分)労働者が死亡した日の翌日から2年
障害補償給付傷病が治癒した後に身体障害が残った場合障害等級にしたがって、第1~7級までは、給付基礎日額の313~131日分の年金。 第8~14級までは、給付基礎日額の503~56日分の一時金。傷病が治癒した日の翌日から5年
傷病補償年金療養開始後1年6ヶ月経っても傷病が治らず、障害の程度が障害等級に該当する場合障害の程度に応じ、給付基礎日額の313 日分から 131 日分の年金時効なし(労働基準監督署長の職権により支給)
介護補償給付傷病年金または障害年金受給者のうち一定の障害を理由に介護を受けている場合常時介護の場合は、介護の費用として支出した額(ただし、171,650円を上限とする)。 親族等により介護を受けており介護費用を支出していない場合、または支出した額が75,290円を下回る場合は、75,290円。 随時介護の場合は、介護の費用として支出した額(ただし、85,780円を上限とする)。 親族等により介護を受けており、介護費用を支出していない場合または支出した額が37,600円を下回る場合は37,600円。介護を受けた月の翌月1日から2年

4、労災を申請する方法

労災の申請は会社が行うことが多いですが、会社からの申請が難しい場合もあります。例えば、すでに退職している場合や会社が倒産している場合、会社が協力してくれない場合などです。また、アスベスト健康被害は長期間の潜伏期間を経て発症する特徴があることから、発症時には既に当時勤めていた会社がなくなっている場合もあるでしょう。

しかし、本来の請求権は労働者にあるため、上記のような場合でも、自分で申請することが可能です。ご自身で労災申請する際の流れは以下の通りです。

① 請求書を手に入れる

会社が労災申請をする場合は、まず会社に症状や診療を受けている病院を伝えて労災申請したい旨の連絡をすることになります。しかしご自身で労災申請する場合は請求書を労働基準監督署に直接出向いて受け取るか、厚生労働省のホームページからダウンロードすることで入手することができます。また、労災保険給付の請求書は、補償の種類ごとに書式が分かれているので、確認する必要があります。どれが必要かわからない方は直接労働基準監督署に相談し、適切な用紙を受け取って来たほうが良いでしょう。

② 請求書に必要事項を記入する
入手した請求書に、必要事項を記入します。

会社が協力してくれる場合は会社の証明を受ける欄があるため会社に証明をお願いするのですが、会社から証明が得られない場合はその旨労働基準監督署に説明する必要があります。通常、証明が得られない事情を記載した文書を提出するよう指示されることが多いようですが、記入方法については労働基準監督署に相談してみましょう。

③ 医師に診断書等を依頼する

医師に疾病に関する証明書を依頼します。療養補償等給付については労災病院や労災指定医療機関等を受診した際は請求書を病院に提出して、病院から労働基準監督署に請求書を提出してもらいます。

④ 労働基準監督署に請求書を提出する
請求書が完成し必要書類も揃ったら、石綿ばく露作業に従事した事業場を管轄する労働基準監督署に提出します(上記③に記載の通り、療養補償等給付の請求において労災病院や労災指定医療機関等を受診した際は病院から労働基準監督署に請求書を提出してもらいます)。

5、労災保険以外の救済

労災保険給付の対象とならないアスベスト健康被害者でも救済を受けることができる制度等がいくつかあります。しかし、だれでも受けることができるわけではなく、一定の要件を満たす必要があります。労災保険給付の対象とならなかったことで諦めず、他の制度等で救済を受けることはできないか、一度確認してみることをおすすめします。

(1)石綿健康被害救済法による給付

中小事業主、一人親方、アスベスト工場の周辺住民等の労災保険給付の対象とならない人や、時効によって労災保険給付を受けることができなくなった人を救済するために、石綿健康被害救済制度が設けられています。
同制度は、「石綿による健康被害の救済に関する法律」に基づく救済制度として設けられており、環境再生保全機構の認定を受けることで、医療費等一定の給付を受けることができます。

なお、労災保険給付と石綿健康被害救済制度による給付金を二重に受給することはできませんのでご注意ください。

(2)国に対する賠償金・給付金請求

アスベストによって健康被害に遭った方が一定の要件を満たす場合、国に賠償金・給付金を請求することができます。

①工場型アスベスト訴訟による賠償金

アスベスト工場で働いていたことが原因でアスベスト被害にあった労働者またはそのご遺族は国に訴訟を提起し、裁判上の和解を成立させることによって賠償金を受け取ることができます。

②建設型アスベスト給付金

建設業務に従事したことによってアスベスト被害に遭われた方やそのご遺族は、所定支給要件を満たすことによって給付金を受給することができます。

請求方法は①と②では異なりますが、どちらも請求が認められれば、疾病の内容に応じて550万円~1300万円の賠償金・給付金を受け取ることができます。

すでに労災保険給付や石綿健康被害救済制度による救済給付金を受けている方も一定の要件を満たせば請求が可能です。国に請求をしたことにより労災保険給付や救済給付金の支給が打ち切られることもありません。

(3)企業に対する損害賠償請求

企業への損害賠償請求という選択肢もあります。しかし、賠償金を受け取るためには企業と交渉、交渉がまとまらなければ裁判を提起することになります。企業への損害賠償請求は上記(2)①のような国への訴訟とは異なります。工場型アスベスト訴訟の賠償金請求の場合は和解要件をクリアしていれば和解に応じてくれますが、対企業の場合はそうはいきません。企業に対する損害賠償請求を検討されている方は、まず弁護士に相談することをおすすめします。

6、まとめ

業務でアスベスト健康被害に遭われた方は一定の要件を満たせば労災給付の対象です。時効期間もありますので期間が経過してしまい申請ができなかった、とならないように注意しましょう。

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