アスベスト相談室

アスベスト給付金に関する「生計を維持していた」や「生計を同じく」の要件について

1 はじめに

労働者がアスベストにばく露する作業に従事したことが原因で「石綿による疾病」を発病した場合、労災保険給付を受けることができます。また、労働者が亡くなられた場合には、その遺族の方が一定の要件を充たせば、遺族補償給付(または特別遺族給付金)を受け取れる場合があります。

上記一定の要件は法律で定められています。このコラムでは、労働者の遺族の方の遺族補償給付などに関する請求の一定の要件の中でも、特に「生計を維持していた」や「生計を同じく」していたという要件に注目して解説します。

なお、労災保険給付及び遺族補償給付(または特別遺族給付金)の概要については他のコラムをご確認ください。

2 各制度における要件

⑴ 労災保険制度

 労災保険制度は、労働者の業務を原因にするなどして労働者の傷病等に対して必要な保険給付を行う制度です。労災保険給付は労働者災害補償保険法に基づいて給付されます。

 アスベスト健康被害を被った労働者も例外ではありません。業務が原因で「石綿による疾病」(石綿肺・中皮腫・肺がん・良性石綿胸水・びまん性胸膜肥厚)を発病したといえれば、アスベスト健康被害を被った労働者も労災給付を受け取ることができる場合があります。また、労働者が亡くなられた場合には、その遺族の方が遺族補償給付(遺族補償年金または遺族補償一時金)を受け取れる場合があります。この点、遺族補償年金を受け取るには、その労働者の死亡当時にその収入によって「生計を維持していた」遺族でなければなりません(労働災害補償保険法16条の2)。

① 受給対象者(遺族)

まず、遺族補償給付を受け取るうえでの法律上の遺族は以下の者です。

・配偶者

・子

・父母

・孫

・祖父母

・兄弟姉妹

② 「生計を維持していた」

上記遺族の方が、亡くなられた労働者の収入によって「生計を維持していた」場合に遺族補償給付がされます。そして、「生計を維持していた」とは、原則として「労働者の死亡当時においてその収入によって日常の消費生活の全部又は一部を営んでおり、死亡労働者の収入がなければ通常の生活水準を維持することが困難となるような関係(生計維持関係)が常態であったか否かにより判断すること」(昭和41年基発第1108号)とされています。この基準に則り、遺族の方が亡くなられた労働者の収入によって「生計を維持していた」か否かを判断されます。

※この点には注意が必要です。以下で説明するように、いわゆる共働きであっても「生計を維持していた」に該当します。「生計を維持していた」には、「専ら又は主として労働者の収入によって生計を維持されていることを要せず,労働者の収入によって生計の一部を維持されて」いれば足り,いわゆる共稼ぎもこれに含まれると解されています(昭和41年1月31日基発第73号)。そして,平成2年7月31日労働省基発第486号では以下のように判断要素が示されています。

・「労働者の死亡当時における当該遺族の生活水準が年齢,職業等の事情が類似する一般人のそれをいちじるしく上回る場合を除き,当該遺族が死亡労働者の収入によって消費生活の全部又は一部を営んでいた関係(以下「生計維持関係」という。)が認められる限り,当該遺族と死亡労働者との間に「生計維持関係」があったものと認めて差し支えないこと。」

・「なお死亡労働者が当該遺族と同居しともに収入を得ていた場合においては,相互に生計依存関係がないことが明らかに認められる場合を除き,生計維持関係を認めて差し支えないこと。この場合,生計依存関係がないことが明らかに認められるか否かは,当該遺族の消費生活に対する死亡労働者の支出の状況等によつて判断すること。」

※遺族には孫又は祖父母が含まれます。しかし、労働者本人とは二親等離れていることから注意が必要です。この場合、以下のように判断されます。

・「ただし,当該遺族が死亡労働者と同居していたその孫,祖父母又は兄弟姉妹であり,当該遺族の1親等の血族であつて労働者の死亡の当時において当該遺族と同居していた者(以下「当該血族」という。)がいる場合には,当該血族の収入(当該血族と同居している当該血族の配偶者の収入を含む。)を把握し,一般的に当該収入によつて当該遺族の消費生活のほとんどを維持し得ると認められる程度の収入がある場合には,原則として生計依存関係があつたものとは認められないこととすること。」(平成2年7月31日労働省基発第486号)

例えば祖父がアスベスト健康被害により死亡した場合、孫が遺族労災給付を請求する場面を考えてみます。このとき、孫が自分の父又は母と同居しているなら、孫だけではなく孫と同居中の父又は母の収入も考慮されます。同居中の父又は母に一定の収入があり、この収入によって孫の生活が維持できる場合、祖父と孫の間に生計維持関係は無いので「生計を維持していた」には当たらないと判断される場合があります。

③ 受給額

遺族補償年金の受給額は、「生計を同じく」していた場合、影響を受けます。

「生計を同じく」していたという要件は、「一個の生計順位の構成員であるということであるから,生計を維持されていることを要せず,また,必ずしも同居していることを要しないが,生計を維持されている場合には,生計を同じくしているものと推定して差し支えない。」と解されています(昭和41年1月31日基発第73号)。

具体的には、以下の場合です。

・患者とご遺族が住民票上同一世帯の場合

・住民票上の世帯は別であるが,住所が住民票上同一世帯の場合

・住所が住民票上異なるが,現に起居を共にしており,家計も同一の場合

・単身赴任や就学などで住所を別にしているが,仕送りなど経済的援助と定期的な音信が交わされている場合

(2)  石綿健康被害救済制度

 石綿健康被害救済制度、石綿による健康被害の救済に関する法律(石綿健康被害救済法)に基づき、アスベスト健康被害を被った労働者又はそのご遺族に対して救済給付を行う制度です。同制度では、独立行政法人環境再生保全機構が申請・給付手続きを扱っています。

同制度に基づいて救済給付を受けるには、一定の要件を満たしている必要があることは労災保険に基づく給付と同じです。

石綿健康被害救済制度では、「生計を同じく」していたという要件を満たす必要があります。しかし、上記で解説した労災保険による給付と異なり、該当の労働者が「生計を維持していた」という要件は必要ありません。

(3) 建設アスベスト給付金制度

アスベストにばく露する作業に従事していた労働者等に対し、令和3年6月に成立した「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」(令和4年1月19日に完全施行。)に基づき、損害の迅速な賠償を図るため、給付金を支給するいわゆる建設アスベスト給付金制度が設けられました。同制度から給付を受けるには一定の要件を満たすことが必要ですが、「生計を維持していた」や「生計を同じく」していた、という要件は求められていません。

3 申請に必要な資料

以上では、各制度と「生計を維持していた」や「生計を同じく」していたという要件の関係を解説しました。一方、各制度に給付金を請求(申請)する場合、「生計を維持していた」や「生計を同じく」していたという要件を満たすことを証明しなければなりません。この時に、必要となる書類は、住民票や源泉徴収票などが考えられます。これらの資料は、ご自身で収集し、提出することになります。

第4 結語

上記で解説してきたことからも分かるように、アスベスト健康被害を受けた方、またはその遺族は、一定の要件に該当する場合、給付金を受け取ることができます。しかし、要件を充たすか否か分からない場合もあります。また申請するにも、申請に必要な資料を集めて作成しなければならず、大変な時間と労力を消費してしまいます。そこで、ご自身の状況が要件を充たすか否か分からない場合、時間や労力を消費しない為、法律の専門家である弁護士に、一度、ご相談されることをお勧めします。

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