判例・解決事例

事例01|石油コンビナートの補修、保温工事等の現場で石綿粉じんに暴露した事例

判決
東京地裁平成16年9月16日判決・労働判例882号29頁
事案
石油コンビナートの補修、冷熱工事を担当し、昭和49年から15年間現場監督に従事した男性が悪性胸膜中皮腫により死亡しました。男性Aは、平成7年11月ころから胸痛、咳、微熱等の症状が出て、同年12月に胸膜炎と診断され、平成8年6月には生検により悪性中皮腫に罹患していると診断されました。原告となったのは、Aの妻子です。
労災認定
あり
認容額
約5,670万円

判旨

 本判決は、海外において、昭和40年以前に石綿が人体に対する危険性のみならず、胸膜中皮腫が石綿労働者の職業性がんであることが推認されるとした文献があることや昭和35年3月にじん肺法が制定され、石綿にかかる一定の作業について同法が適用されるなどの法令の整備状況に照らすと、遅くとも昭和40年ころまでは石綿粉じんが人の生命・健康に重大な影響を及ぼすことについて業界にも知見が確立していたとし、会社は、男性が現場監督の業務に従事した際、石綿粉じんの吸入によって、その生命・健康を害する影響を受けることについて予見可能性があったと認めることができるとしました。
 また、➀Aは、会社在職中の昭和40年から45年までおよび49年から59年までの間、現場監督業務に従事した際に、反復して石綿の粉じんを吸入したていたこと、②がんセンターの医師は、生検により男性を悪性中皮腫と診断したこと、③地方じん肺産業医も、AのX線所見および生検の結果等から、病初の胸部XPでアスベスト肺と診断できるとし、悪性中皮腫は石綿ばく露との因果関係が極めて濃厚であるとしたこと、④低濃度のばく露であっても悪性中皮腫を発生することが知られており、さらに、Aの石綿ばく露開始時期および終了時期と発症および死亡時期は、統計上の平均値とも概ね整合していることから、Aが、会社の在職中の前記期間に石綿粉じんを吸入したことにより、悪性中皮腫を発症して死亡したことについては、高度の蓋然性が認められ、男性が会社に勤務中に現場監督業務に従事した際、石綿にばく露したこととの間には、因果関係があると認めることができるとしました。
 本判決は、現場監督であるAに対し、石綿の人の生命・健康に対する危険性について教育の徹底を図るとともに、男性に対しても防じんマスクを支給し、マスク着用の必要性について十分な安全教育を行うとともに、石綿粉じんの発生する現場で工事の進行管理、職人に対する指示等を行う場合にはマスクの着用を義務づけるなどの注意義務があったとしました。そのうえで、会社は、補修工事等の対象となる建物について、石綿が使用されている箇所および使用状況をできる限り調査して把握し、現場監督に周知すべき注意義務があったというべきであり、労働契約上の安全配慮義務違反があったものといわざるをえず、また会社には労働者の健康をそこなわないように配慮すべき注意義務(前記安全配慮義務と同内容のもの)違反も認められるとしました。

コメント

 綿粉じんの吸入については、石綿粉じんの吸入とじん肺り患について因果関係を認め、使用者の安全配慮義務違反を認めた平和石綿工業・朝日石綿工業事件(長野地裁昭和61年6月27日判決・労判478号53頁)があります。本判決は、この判決を含めてじん肺に関する判例法理(日鉄鉱業事件・最高裁平成11年4月22日・労判760号7頁、同・福岡高裁平成8年7月31日判決・労判760号8頁など)を踏まえたものといえるでしょう。
 遅くとも昭和40年ころまでは石綿粉じんが人の生命・健康に重大な影響を及ぼすことについて業界にも知見が確立していたという判断はその後の裁判例に大きな影響をもたらしました。

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