判例・解決事例

事例06|取締役店長が店内に吹き付け材に含有するアスベストに被爆し、悪性胸膜中皮腫に罹患し、その後自殺により死亡した事例

判決
大阪地裁平成21年8月31日判決・判例タイムズ1311号183頁
事案
鉄道高架下の建物において、A社の取締役店長として勤務していたBが、悪性胸膜中皮腫に罹患し、その後自殺により死亡したことについて、Bの相続人Xらが、建物所有者(吸収合併によりZ社の権利義務を承継した会社)Y1に対しては、債務不履行、不法行為又は土地の工作物の設置、保存上の瑕疵に係る責任に基づき、本件建物の賃貸人の地位を承継したY2に対しては、債務不履行又は不法行為に基づき、それぞれ損害賠償を求めた事案
労災認定
不明
認容額
約4,120万円

判断

 Y1に対する請求一部認容、Y2に対する請求棄却
 本件建物は、2階倉庫の壁面部分に、アスベストの中でもとりわけ発がん性などの有害性が強いクロシドライトを一定量含有する吹き付け材が露出した状態で施工されており、しかも、頻繁に電車が往来する鉄道の高架下にあって、鉄道が通るたびに相応の振動が生じることにより、上記吹き付け材が飛散しやすい状態にあったから、本件建物は、それを利用する者にとって、アスベスト吹き付け材から発生した粉じんの暴露、吸入により、生命、健康が害され得る危険性があったといえる。そうすると、本件賃貸借契約開始時である昭和45年3月の時点以降、本件建物には、設置、保存上の瑕疵があった。
 ①本件建物の所有者として、本件建物が駅高架下に存在するという鉄道施設に関連した特殊物件であることを前提に、本件賃貸借契約を締結し、同契約においては、建物所有者に対し、管理上必要があるときに、本件建物に立ち入り、必要な措置を執る権限が認められていたこと、②本件賃貸借契約上、賃貸人である建物所有者は、本件建物の主体建築物及び基礎的施設の維持管理に必要な修繕義務を負担しているところ、2階倉庫の壁面には、アスベスト吹き付け材が施工されており、電車の振動及び経年劣化により、2階倉庫部分には本件粉じんが飛散し得る状態であったことからすると、2階倉庫の壁面につき修繕等の措置を執ることが許容されているのは専ら賃貸人たる建物所有者であって、賃借人にはそのような権限がなかったこと、③賃借人はいわゆる法人成りした会社であり、被害者であるBと実質上同一であると評価できることを総合考慮すると、Bに対する関係で本件建物2階倉庫部分に施工されている吹き付けアスベスト材から生じる危険について、支配、管理し、損害の発生を防止し得る地位にあった者は、建物所有者であるというべきである。

コメント

 民法717条1項の土地の工作物の設置、保存上の瑕疵がある場合については、営造物の設置、保存上の瑕疵に関し、その種類に応じて通常有すべき安全性を欠いている場合をいうとするのが判例です(最判昭和45年8月20日(判タ252号135頁)。
 本判決は、アスベストについての知見の普及に係る事実認定をもとに、昭和45年ころには、人の生命、健康に対するアスベストの危険性、有害性について、一般的に認識されていたという評価をし、人が利用する建物は、その性質上これを利用する者にとって絶対安全でなければならず、人の生命、身体に害を及ぼさないことが当然前提となっているとの理解を示しました。アスベストの一種であるクロシドライトを一定量含有する吹き付け材が飛散しやすい状態にあった本件建物は、利用者にとって、アスベスト吹き付け材から発生した粉じんの暴露、吸入により、生命、健康が害され得る危険性があったとして、本件建物の設置、保存上の瑕疵を認めました。
 また、民法717条1項の「占有者」については、危険な工作物を支配管理する者が、当該危険が現実化したことによる責任を負うべきであるとの考え方をもとに、本件建物は駅高架下に存在するという鉄道施設に関連した特殊物件であり、本件賃貸借契約上、建物所有者は、賃貸人として、2階倉庫の壁面につき修繕等の措置を執る義務を負担しているとともに、管理上必要があるときに、本件建物に立ち入り、必要な措置を執る権限が認められていることなどから、本件建物の2階倉庫の壁面に施工されている吹き付けアスベスト材から生じる危険を支配、管理し、損害の発生を防止し得る地位にあった者は建物所有者であるというべきであると判断したのです。

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