判例・解決事例

事例08|農業用クラッチ組立作業従事者がびまん性胸膜肥厚となった事例

判決
大阪地裁平成22年4月21日判決・労働判例1016号59頁
事案
Y社の工場において農耕用クラッチ(クリソタイル〔白石綿〕含有)の組立て等を手作業で行うなどの業務に従事した女性X1が、びまん性胸膜肥厚の悪化がみられ、肺機能が悪化し、著しい肺機能障害が認められたため、その子供X2と共に提訴した事案
労災認定
あり
認容額
X1に2,290万円、X2に110万円

判断

 X1は、Y社における約21年間の就業期間中、クラッチ組立作業に従事し、常時石綿粉じんに曝露する状況にあり、これに加えて、昭和44年ころ以降は、10日に1度、1回2時間程度の頻度で行ったクラッチフェーシングの研磨作業により、継続的に相当多量の石綿粉じんにばく露していたものということができる。
  X1は、最初の石綿粉じん曝露から40年を経過した平成13年頃から息切れや胸苦しさ、全身疲労感等の症状を発症するようになり、18年1月頃石綿肺および肺結核と診断され、じん肺管理区分2と判断され、労災休業補償給付を受給するようになった。20年には胸膜肥厚斑(胸膜プラーク)等と診断され、21年にじん肺管理区分4と判断されているが、これらの事実は、石綿肺、胸膜肥厚斑等の症状、発症時期等に関する知見と矛盾するものではないことからすれば、X1の石綿肺等の発症は、Y社における石綿粉じんの曝露と因果関係がある。
 X1が従事した第2又は第5工場におけるクラッチ組立作業は、作業時に粉じんの飛散する状態であったこと、少なくとも昭和54年ころまでは、第2又は第5工場内でブレーキライニングの研磨作業が行われた部分と組立作業が行われた部分との間仕切り等もなかったこと」などによれば、「Y社において、適切な局所排気装置等の設置による粉じん発生の抑制等の措置をとる義務等の履行がされたものと認めることはできず、同義務の懈怠があった。

コメント

 本判決は、予見可能性について、予見義務の内容は抽象的な危惧で足りるとし、同義務の前提として認識すベき予見義務の内容は、生命、健康という被害法益の重大性にかんがみ、安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧があれば足り、必ずしも生命、健康に対する障害の性質、程度や発症頻度まで具体的に認識する必要はない、としました。
 次に、石綿の粉じんが人の生命、健康を害する危険性を有するものである以上、Y社は、石綿製品の製造、加工業等を営む事業者として、昭和35年に上記じん肺法が施行されたこと等の経過を踏まえ、遅くともX1が就労した昭和37年ころまでには、少なくとも石綿に関連する法規制を把握し、これに従うことはもちろん、十分に情報収集をするなどして、石綿粉じんの健康被害等の危険性や対策について把握することは可能であった、としています。
 かなり早い時期から予見可能性を認めた裁判例として注目されます。

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