判例・解決事例

事例09|アスベスト工場の労働者及びその家族、近隣住民がアスベストに被爆し石綿関連疾患に罹患した事例

判決
大阪地裁平成22年5月19日判決・LIC
事案
アスベスト(石綿)工場の労働者であった者及びその家族並びにアスベスト工場の近隣で農業を営んでいた住民(相続人を含む。)である原告らが、被告である国に対し、アスベスト粉じんにばく露したことによって健康被害を被ったのは、国が規制権限を行使しなかったためであり、国家賠償法1条1項の適用上違法であるとして損害賠償を求めた事案
労災認定
あり(Xらのうち労働者)
認容額
省略

判断

 国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において、国賠法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である。
 石綿粉じんばく露と肺がん及び中皮腫の発症との間に関連性があるという医学的又は疫学的知見は、昭和47年におおむね集積されたといえるところ、同年10月に施行された特化則(特定化学物質障害予防規則)は、屋内作業場の石綿粉じん濃度を測定し、記録を保存することを義務付けるにとどまり、測定が実行されることを担保する措置としての測定結果の報告及び抑制濃度を超える場合の改善を義務付けておらず、このことは、そのような報告義務・改善義務を課することにさほどの障害があったと認めがたい以上、許容される限度を逸脱して著く合理性を欠いたもので違法であった。
 石綿粉じんの規制権限を省令に委任した旧労基法42条、43条等の安全衛生に関する規定及び安衛法22条等の健康障害防止措置に関する規定は、いずれも職場における労働者の安全と健康を確保する趣旨の規定であるから、被告の省令制定権限不行使が違法とされるのは、労働者との関係においてであると判示した。そのうえで、被告(労働大臣)が旧じん肺法の成立した昭和35年の時期において、省令制定権限を行使して局所排気装置等の設置を義務付けなかったために、また、昭和47年以降の時期に、屋内作業場の石綿粉じん濃度の測定結果の報告及び抑制濃度を超える場合の改善を義務付けなかったために、それぞれ、その後の石綿じんばく露による被害の拡大を招いたと指摘して、被告の省令制定権限不行使の違法と、昭和35年以降の時期において石綿粉じんにばく露し石綿関連疾患に罹患した労働者である原告らの損害との間に相当因果関係を認めた。なお、被告は、賠償責任の範囲について、労働環境における労働者の危害防止及び安全衛生に配慮すべき義務に関しては、使用者又は事業者が第一次的かつ最終的責任を負担するものであり、仮に本件において被告が損害賠償責任を負うとしても、被告の責任は、当該石綿作業場を経営する企業が当該労働者に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負うことを前提として初めて認められる、二次的、補充的な責任にとどまるとして、賠償義務は、使用者等のそれに比して相対的に低い割合に限定されるべきであると主張する。これに対して本判決は、被告と使用者らとの責任はいわゆる共同不法行為(民法719条)の関係にあり、被告の責任範囲の縮減には、同法719条1項後段を適用するか、類推適用して、被告の責任範囲を縮減すべき事情の立証が必要である。

コメント

 本判決は、アスベスト工場の元労働者に対し国の責任を初めて認めた画期的な判決です。
 行政庁の規制権限の不行使を理由に国家賠償法1条1項の責任が追及された事例は多いが、典型的な規制権限不行使の事案で最高裁での違法とされたものは、通商産業大臣が石炭鉱山におけるじん肺発生防止のための鉱山保安上の保安規制の権限を行使しなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法となるとされた判決は、最高裁平成16年4月27日(民集58巻4号1032頁)があるにとどまります。
 行政庁の規制権限の不行使に関する一般論としては、最高裁平成7年6月23日(民集49巻6号1600頁など)に基づき、「行政庁の規制権限の不行使が、具体的事情の下において、その権限が付与された目的、権限の性質等に照らし、許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使が国賠法1条1項の適用上違法となるとされています。
 本件では、国の責任と使用者の責任との関係が問題となったが、本判決は、被告国と使用者らとの責任は共同不法行為の関係にあり、国が責任の範囲を減縮すべき事情を立証していない以上、全部の賠償責任を負うことを免れない、としました。

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