判例・解決事例

事例07|倉庫会社のトラクター運転手がアスベストに被爆し、中皮腫となり、死亡した事例

判決
神戸地裁平成21年11月20日判決・労働判例997号27頁
事案
昭和26年7月、会倉庫社に入社し、トラクター運転手として昭和52年3月までの約26年間、神戸港の三井桟橋周辺で勤務した男性Aが、平成9年4月に病院で中皮腫と診断され、平成11年6月に中皮腫により死亡し、その妻子であるXらが提訴した事案
労災認定
あり
認容額
3,367万円

判断

 中皮腫は石綿肺(アスベストの高濃度曝露によって発症するじん肺)とは異なり、アスベストの低濃度曝露でも発症し、年数を経るほど発症頻度が高くなること、「石綿による疾病の認定基準について」(平15.9.19基発0919001号)はそれ以前の基準を改訂したものであるところ、その改訂においては、石綿曝露作業に「倉庫内等における石綿原料等の袋詰め又は運搬作業」、「石綿又は石綿製品を直接取扱う作業の周辺等において、間接的なばく露を受ける可能性のある作業」が追加され、また、中皮腫にかかる認定要件のうち、石綿曝露作業ヘの従事期間が「5年以上」から「1年以上」に短縮されたことなどを指摘したうえで、「中皮腫は、石綿との関係が特に濃厚な疾患で、中皮腫の大半が石綿粉じんの曝露により生じるとされており、Aが発症した中皮腫も石綿粉じんの曝露を原因とするものであることが推認できる。
 安全配慮義務の履行を可能ならしめるために必要な認識としては、石綿の発ガン性による中皮腫の発生可能性の認識まではなくとも、石綿粉じんに曝露することにより健康・生命に重大な損害を被る危険性があることについての認識があることで足りるとしたうえで、本件につき、わが国における法令の整備状況等に照らせば、遅くともじん肺法が制定された昭和35年頃までには、石綿粉じんに曝露することによりじん肺その他の健康・生命に重大な損害を被る危険性があることについて、Y社を含む石綿を取り扱う業界にも知見が確立していたといえ、そのような危険性があることについての予見可能性があったというべきであり、そうすると、Aがトラクター運転手の業務に従事した期間のうち、石綿粉じんへの曝露の機会があった昭和40~51年までの期間のすべてについて、会社Yに安全配慮義務の前提としての予見可能性があった。

コメント

 Y社は、昭和40年以降、労働者が石綿の粉じんをできるだけ吸入しないようにするための措置として、防じんマスクなどの呼吸用保護具や石綿粉じんの付着しにくい保護衣、保護手袋などの支給、石綿の危険性についての教育の徹底および防じんマスク着用の必要性についての十分な安全教育の実施について義務を負っていたというべきところ、Y社がこれらの措置をとっていたとは認められないとして、Y社には、予見可能性が認められる昭和40~51年まで全期間にわたって安全配慮義務違反が認められるとしました。Y社の安全配慮義務違反とAが中皮腫を発症して死亡したこととの間には相当因果関係が認められること、さらに、使用者は、不法行為上の注意義務違反も認められるとしました。
 その後の裁判例が、中皮腫の医学的知見確立時期を昭和47年ころとしているのと比較し、より早い時期の知見確立を認めている点が注目されます。
 なお、損益相殺の可否については、石綿健康被害救済法が定める特別遺族年金は、労災保険法に基づく遺族補償給付を代替するものであって、その補償目的は、労災保険法における遺族補償給付と同一のものであるとし、一般的には損益相殺を認めるべきとしました。しかし本件においては、Aの逸失利益などの消極損害を請求していないことから、特別遺族年金を同人のY社に対する損害賠償金との関係で損益相殺することはできないとしています。

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