事例02|父親が防じんマスク及び作業衣を持ち帰り、家族が曝露した事例
- 判決
- 東高裁平成17年1月20日判決・判例タイムズ1210号145頁
- 事案
- 会社に勤務して石綿を取り扱う業務に従事していたの父親が、防じんマスク及び作業衣を持ち帰り、家族がそのマスクをかぶったり、作業衣に接触したことにより石綿に曝露した事例
- 労災認定
- なし
- 認容額
- 0円(請求棄却した原審を維持し控訴棄却)
判旨
仮にAの死因が悪性中皮腫であり,かつ,それと家庭における石綿曝露を受けたこととの間に相当因果関係があるとしても,会社が,その雇用する労働者が自宅にマスクや作業衣を持ち帰ることによって、その家族が疾患を発症するなど健康を害することまで予見することができなかったとし、それに付加して、家族が石綿曝露を受けたとしても、それによる石綿粉じんの吸引量は極めて微量であったと推認されるから、たとえ会社の工場において青石綿や茶石綿も利用されていたとしても、それがために家族に悪性中皮腫が発症したと認めることはできないとしました。
石綿(アスベスト)は、天然に産出される繊維状でほぐれやすい珪酸塩鉱物ですが、耐熱性、耐酸性、絶縁性、耐水性、加工性に優れ、建材などの保温熱材に広く利用されています。しかし、経気道的に身体に吸入されると、肺に繊維増殖性変化が起き、悪性中皮腫あるいは肺癌の発症の原因になり得るとされています。
本件では、Aの死因が悪性中皮腫か肺癌か、石綿曝露とAの死亡との因果関係、Yの予見可能性の有無等が問題とされ、1審判決はそれらの論点をいずれも消極と解されました。本判決は、石綿粉じんの吸引による悪性中皮腫が発症したと認めることはできないとしました。
ポイント
本判決は、雇用する労働者が自宅にマスクや作業衣を持ち帰ることによって、その家族が疾患を発症するなど健康を害することまで予見することができない、家族が石綿曝露を受けたとしても、それによる石綿粉じんの吸引量は極めて微量であったと推認されるから、たとえ会社の工場において青石綿や茶石綿も利用されていたとしても、それがために家族に悪性中皮腫が発症したと認めることはできない、と判断しました。
石綿の間接曝露、家庭内曝露が問題となった珍しい事例です。